リボンズが第二期ラスボスなら? ←最早疑問形ではない。ついに終わりましたがホラ、2010年の映画に続く気満々だったから……!最終話付近で勝手に超展開。 だらだら細々つづいてます。間が空きすぎです。
この話の前提あらすじは0をご覧ください。
行き先は不明ですが主人公(せっさんではなくせっちゃん含め四人とも若いまま続投中)は報われるのが好きです。綺麗事も好きです。
しかし閉じとけって感じですよねすみません……。
ほぼオールキャラ。
前を向く、故、見えなくなるその眸。ああけれど横顔は、そう雄弁に、語るのだ。僕達には未来があるのだと。
うつくしさは何を持って定義されるのか。完璧であることとうつくしいことは等しいのか。欠けたる月を愛でる方が好きだと言うのなら、選べないまま満ちた月はその完璧さこそが足りなさであると言うのに敬遠されるのだ。ひとはそれを逆説(パラドクス)と呼ぶ。
何かと目立つ人間であるところの「ユニオンのエースパイロット」の姿を見掛けたのは無論唯の偶然だった。自分が地味な部類に属していることを十二分に心得ている沙慈には見た目だけでなく伝え聞く中身のエキセントリックさも含めて少々眩しい相手だったから、見間違える筈もない。其れに彼は沙慈の「夢」を叶える人間なのだ。どうして忘れられようか。
(僕の……夢)
ガンダムを倒すこと。姉とルイスの敵討ちをすること。――宇宙で、働く、こと……。
去来した複雑怪奇な感情に翻弄されて沙慈は唇を噛み締めうつ向いたままその場に立ち尽くした。
いつから此処はこんなに暗くなったのだろう。姉が遺した欠片はJNNの人々を繋ぎ、たぶん世界の何処かにも自分と同じ思いをしている人間がいる。
(……どうして)
だのに。
胸の中が熱くなる。込みあげてくるものを必死で押さえ付けたら頭の芯まで熱くなった。呼吸が、しづらい。
「大丈夫か?」
と、不意に声をかけられて沙慈は慌てて顔を上げた。陶器めいた薔薇色の肌を持つ筈の人物はだがうっすらと血の気の引いた顔をしたままで自身を棚にあげ沙慈を微かに心配そうに見ていた。それでも力を失わない怜悧な瞳で。ユニオンのエースパイロットと詠われるグラハム・エーカーそのひとだった。
「は、はい、すみません……」
小さくなって沙慈がそう謝るとグラハムは瞬きを何度かした後口許に手を寄せて、サジ、と尻上がりに呟いた。沙慈は頷いてから、
「沙慈・クロスロードです」
と改めて頭を下げた。その刹那、急に何かに思い至ったようにグラハムが動揺でか僅かに唇を震わせながら、沙慈を真正面から見据えてきた。そして深い吐息。
「……これも又天の配剤と言うことなのか」
謎めいた呟きは沙慈に向けられたものではなく唯の独り言だったが、一旦伏せられた睫毛が再び取り払われ沙慈を見つめたところで彼はもう一度口を開いた。
「君のお父上はジャーナリストか?」
「どうしてそれを……」
今度は沙慈が驚く番だった。父の話など此処ではしたことがない。姉がジャーナリストだったと言うのはしつこいくらいに喧伝されてはいたが。
ふと見ればグラハムはやはりな、と呟いて吐息を漏らしている。……聞き覚えのある名前だと思った。それは更に微かに、かすれた絵の具のように吐き出された。
「君はジャーナリストにはならないのか」
清冽な軍人は軍人らしい、迷いを持たない問いを真っ直ぐにぶつけてきた。そうだ、迷いや小さな綻びは恐ろしいほど命取りになる。だからMSが足を引っ張らないように、自分達はきちんと調整しなければならない。カタギリもそう言っていたではないか。
だがその思いがけない問いかけにとっさに返せる反射神経を持たずに沙慈は口ごもった。
「何で、ですか……?」
漸く口に出来たのは疑問に疑問で返すと言うどうしようもない台詞だったが、グラハムはふと目を細めただけで特に気分を害した様子もなくさらりと続けた。
「『ペンは剣よりも強い』のではないのか?」
――其れが正しいのかそれとも正しくないのか、決めるのは己自身だが、私は嘗て其れに敗北を喫した事がある。そして其れは必ず負けるべきだった。
真意が何処にあるのか悟らせぬまま、否、本当に呟きは内側に向けられたものなのかも知れぬ、グラハムは話を切り上げた。けれども剣の強さを生業とする軍人から発せられたその言葉は沙慈には確かに重く響いた。
「僕、は……」
其処で途切れた話の穂はいっそ華麗なまでに一人の男によって継がれる。沙慈が口にしなかった――いや、出来なかったのか――心の内を見透かすように。
「……そうだな、あの赤いガンダムが君の日常を奪った事に関しては君は何も悪くない。敵討ちをしたいと思うのも自然の流れだ。私とて教授やハワードやダリル達の無念は晴らしてやりたいと思っている。――だが」
「本当は相手を憎んではならないのだ。守るべきものの為に戦わねばならない。合法的に赦されているとは言え所詮殺人だ。ならばせめて其れを限界まで昇華させるのが軍人の矜恃である、と」
そう思わないか君は、と、彼はその綺麗な双眸をついと沙慈に向けた。沙慈は震える身体で其れを受け止めた。深く深く、食い込むように。
「――貴方はガンダムに勝てるのですか」
渾身の力を込めて言葉を引きずり出す。
「……多分」
問われた方は微かに笑った。私がどう思うかは又別の話だが、小さな囁きが耳に触れた。
そのまま彼はするりと身を翻しその場から去っていった。後には沙慈と、置いてかれた言葉だけが残った。
(父さん……)
父が、そしてその背を追い姉が、目指した道の先には。一体何が待っていたと言うのか。
『ペンは剣よりも強いのではないのか?』
ああ本当に。其れを信じて良いと言うのか。
「ルイ、ス……」
彼はまだ知らなかった。
ルイス・ハレヴィがハレヴィ家のただ一人の生き残りとして何を決意したのか。
そしてゆっくりと混沌が深まっていくことも、静かに張り巡らされた陰謀のことも、グラハム・エーカーの覚悟も、沙慈の知る刹那・F・セイエイがガンダムマイスターであることも。何もかも。
唯澱のように沈んだ欠片を拾えば浮上する機会を得るかも知れないとの思いつきが頭を離れず。「交差する道」――彼の名の如く。
つづく。